気まぐれブックレビュー「父よ母よ」

 高校教諭をしている友人から紹介された本です。1994年刊行の本で、当時話題になっていた記憶はあるのですが、今になってようやく、初めて手に取りました。

 紹介してくれた友人が、この著者って、きみの息子くんの学校の先生なんじゃない?と言うので、早速図書館で借りてきて見てみたら、本の扉を開いたところにいきなり、息子が通う高校の生徒と保護者への献辞が。

 この本は、長年高校の国語教師を務めた吉村英夫氏が、授業の中での試みとして、生徒に作らせた、父や母に宛てた一行詩を集めたものです。

 小論文でも感想文でもなく、俳句や短歌ですらない自由形式の短文なので、生徒たちの生の声に近い息づかいが感じられます。

 26年前の本だから、書かれたのはおそらく30年くらい前、今の高校生たちより、むしろ親の世代に近いのだけれど、古さは感じられません。

 そりゃ、ネットも携帯もなかったし、固定電話をめぐる話題がしばしば出てくるのには、時代を感じるのだけれど。

「父よ母よ!十五分の電話は長電話とは言わんよ」とか「お父さん!彼氏の電話にヤキモチ焼かんといて。お母さん!電話で私より彼氏としゃべらんといて。ヤキモチ焼くわ」とか。

 息子が高校に通い始めたときにこの本を手に取るのって、なんだか仕組まれていたようなタイミングだなあ、と思いながら、読み進めてゆくと、わが子が自分に宛てて書いたのではないか、と錯覚するくらいに親近感を感じる作品がどんどん出てきて、ケラケラ笑ったり、シュンとしてしまったり。

 言葉使いに微妙な方言が含まれていたり、ローカルな地名や店名が出てくるとなおさら。

「父よ!お酒飲むとわけわからんくなるの、やめてください
 あっ、いつもわけわからんけど」で爆笑して、

「父よ母よ!『あと何年、いっしょにおれるやろ?』なんて言われると、なんだか心にじんとくる」でしんみりして、

「父よ!血がつながっているということが、愛する理由にはなりません」でドキッとして、

「自分を大統領だと思っている父よ!あんたはうちのゴキブリや」でうちのめされ、

「父よ!あんたとは同じ空気を吸いたくないほど嫌いだ」で絶命。

けれど、「父よ母よ!俺は二人が嫌いじゃない。大好きだ。けど愛想悪くてゴメン」で息を吹き返し、

「父よ母よ!出来損ないですが、マジメに生きておりますので、見てやってください」で愛しさがこみ上げ、

「もっと大事にしてあげたいから、私が卒業するまで待っていて下さい。そして、私より先に死なないで。あなたは欠点も多いけど、わたしはあなたなしには生きられないと思っているんだよ」で、一緒に暮らしていてくれてありがとう、と思う。

 なんだかもう、エモーション持って行かれっぱなしでした。本を開いている間、幸せな時間を過ごすことができました。

 この「父よ母よ」をまとめたプリントを、生徒達が持ち帰り、家族に見せたことから、今度は親から子に宛てた「息子よ娘よ」が生まれ、対をなす本が作られています。どちらもオススメ!