子育てコラム(84)「与えてくれたもの」

☆店主カワムラの子育てコラム☆

毎月発行しているメールマガジに連載している、
店主カワムラにによる子育てコラムのバックナンバーを紹介します。
子育ての中で、父として感じたこと、
学んだことを織り交ぜて書き綴っています。
上から目線でアドバイスと言うよりむしろ、
わが子と向き合いながら、迷ったりうろたえたりしてることを
正直に書いているつもりです。
共感したり、参考にしていただければ、さいわいです。

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2023年1月

 b-Cafe店主カワムラです。

 先日、高校3年生の長男が、大学入試共通テストを受けました。

 本番の1週間ほど前に体調を崩してしまい、ヒヤヒヤしたのですが、何とか回復し、無事受験することができました。

 テスト当日の朝は、あいにくの雨だったので、駅まで車で送ってあげました。車から降りる際、ふだんはむっつりしていることの多い長男が、珍しく「どうも」と言い残していきました。

 「どうも」がお礼になっているのかどうかは置いておいて、彼なりに目いっぱい、しおらしくしたつもりなのでしょう。

 改札に向かう長男を見送りながら、ああ、これが「大学受験に向かう息子を送り出す朝」なんだなあ、と気がつきました。

 長男が中学校に入る頃、周囲の子育ての先輩たちから「中学校の3年間は早いよ」と、よく言われていました。実際入学してみると、親子ともども小学生の気分が抜けないまま1年生が終わり、2年生で慣れてきたと思ったら、もう3年生で、高校のことを考える時期が来ていました。

 そして、高校の3年間はさらに早い。保育園から、小、中、高と進んでくるに従って、親がその場に足を運ぶ機会が少なくなる、という点も大きいのでしょうが、本当に、いつの間にか学年が進んでいた感じです。

 去年の暮れの頃、長男に「3学期って、お弁当要るの?」と尋ねたら、「3学期は無いで」と言われました。

「無いって、どういうこと?」と聞き直したら、

「だから、無いねん。授業はもう2学期のうちに終わるし」と言われてびっくりしました。

 実際、正月休みが明けると間もなく共通テストで、その後も入試対策講座でときどき登校することもあるけれど、朝から夕方までの授業を受ける、という日々は2学期でおしまいのようです。

 そして、三重の県立高校はだいたい、3月の1日が卒業式。あっという間です。

 長男は県外の大学への進学を希望しているので、受験がうまく行けば、春には家を出てゆくのでしょう。もう会えなくなる、というわけではぜんぜん無いのですが、暮らしを共にする日々は、ひとまず終わりを迎えます。

 すぐそこまで来ている、その日のことを思いながら、しんみりしています。

 たくさんの時間と労力を費やして育てた子どもは、やがて家を去ってゆく。

 そう考えると、子育ってって見返りがないよなあ、と感じてしまいそうになるのですが、そうではないと思います。 

 子どもたちは日々、彼らなしでは味わうことのできなかった「子どもたちとのじかん」を、与え続けてくれたのだと思います。

 ぼくらが一方的に与え続けてきたのではなく、与えることによって与え返されるものを、ぼくらは受け取り続けてきたのだと思います。

 そんな歳月の中で、ぼくらは子どもを「育てた」のではなく、子どもらと育ち合ってきたのでしょう。

 去年の暮れ、アマゾンのセールで、ディスプレイ付きのスマートスピーカーというものを買ってみました。「アレクサ」にお願いすれば、音楽やラジオをかけてくれたり天気を教えてくれたりするヤツです。

 そのディスプレイに、アマゾンのサーバにアップロードしている自分の写真をスライドショーで表示する、という機能があります。

 写真はランダムに表示されるようなのですが、見ていると、とっくに忘れていたような、子どもらが保育園の頃や、もっと前の懐かしい写真が出てくることがあって、ああ、こんなこともあったよなあと、つい見入ってしまいます。

 そして、こうやって子どもたちは、彼らと過ごさなければ出会うことのなかった、たくさんの景色を見せてくれたのだなあ、ということを、改めて感じています。

 だから、あれこれ考えんと、ありがとうって思っとけばええやん。

 ・・・ほんと寂しくて仕方がないのですが、そんなふうに考えて、自分をなだめています。