子育てコラム(89)「佐々木先生からの手紙」

☆店主カワムラの子育てコラム☆

毎月発行しているメールマガジに連載している、
店主カワムラにによる子育てコラムのバックナンバーを紹介します。
子育ての中で、父として感じたこと、
学んだことを織り交ぜて書き綴っています。
上から目線でアドバイスと言うよりむしろ、
わが子と向き合いながら、迷ったりうろたえたりしてることを
正直に書いているつもりです。
共感したり、参考にしていただければ、さいわいです。

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2023年6月

 b-Cafe店主カワムラです。

 児童精神科医の佐々木正美氏による「はじまりは愛着から」という本を読みました。しばらく本棚に立てたままになっていたのを、ようやくふと手に取ったのでした。

 若い方たちに向けて書かれた入門書なのだろう、くらいの気持ちで軽く目を通し始めたのですが、ページをめくる度に、ぐいぐいと刺さってくる文章がたくさん散りばめられた、良い意味でとても重みのある本でした。

 子どもが健やかに育ってゆくためには、ごく小さい頃に、家族との関係の中でつちかわれる「基本的信頼感」が大切だ、とよく言われます。

 「人は信じられる。だから自分も信じられる。私はここにいていい」というような感覚です。これは「考え」というよりも、心身の内に根付いた、根拠の要らない「感覚」のようなものだと思います。

 そんな「基本的信頼感」を、幼少期のうちにしっかりと育んであげよう、ということがよく言われていて、ぼくもその考え方に全面的に同意します。

 「基本的信頼感」は、親が子どもに与えることのできる、かけがえのない「たからもの」で、子どもが自分自身の人生に立ち向かうとき、それが彼らを守り、支え、前に進む一歩を後押ししてくれるのだと思っています。

 そんな「基本的信頼感」を育むのは「母性」です。我が子を無条件に受け入れ、くつろぎと安らぎを与える、ゆったりたっぷりとした、ゆりかごのような存在です。

 それに対して「父性」は、その子が社会の中で協調して生きていけるよう、一定のルールや規制を与えるものです。「しつけ」がこれに当たります。

 子どもが健やかに育ってゆくためには、そのどちらもが必要です。

 この「母性」や「父性」はそれぞれ、母親、父親が担うべきもの、というわけではなく、むしろどちらもが「母性」と「父性」を併せ持っているものだと思います。

 「母性」と「父性」について、ぼくは漠然と、そのバランスが大切なのだろう、くらいに考えていたのですが、この本には「母性、父性は順序が大切」と書かれていて、今さらながら、そうなんだ!とびっくりしました。

 まずは母性的な養育の中で、子どもに包み込まれているような安心感を十分に味わわせて、安定した心の基盤を作ったうえで、父性的な「しつけ」をしてゆく、という順番が大切である、と強調されています。

 この部分を目にして、うちの長男が小さかった頃のことを思い出しました。

 待望の第一子で、それはもう可愛くてしかたがなく、存分に甘やかしまくったように思うのですが、一方で、少し大きくなってからは、ちゃんとさせなきゃ、という思いもあって、今となっては、厳しく接し過ぎたなあと思うこともあります。

 人に会ったらちゃんと挨拶しなきゃとか、おしゃべりばっかりせずに、しっかりご飯を食べなきゃとか、いつまでも指チュッチュは恥ずかしいよ、だとか。

 どれも「この子のために必要なのだ」と思ってやっていたことですが、実はぼく自身の「ちゃんと」の基準から、子どもが外れてしまう不安を何とかしたかっただけなのかもしれません。

 こんなふうに「受容」と「しつけ」がないまぜになって、結果的には一貫性のない対応になったり、そのことで親が混乱したり疲れてしまう、というのは、ぼくだけの経験ではないと思います。

 その頃に、まずは「母性」、それから「父性」でいいんだよ、ということを知っていれば、子どもに対して、もう少しゆったりと接することができたかな、と思うんです。

 また、この本の中では、人間は「日々、人と交わりながら生きることを運命付けられた存在」である。人は自分の生まれて来た意味や生きてゆく価値を知りたいと願うが、それは人間関係の中でしか、見出したり実感することができない、ということが繰り返し語られています。

 人と交わることは大きな喜びを与えてくれますが、同時に傷つくこともあります。そんな人間関係の中に、勇気を持って踏み出してゆくためにも、まず「人は信じられる。だから自分も信じられる。」という基本的な感覚が、とても大切なのだと思います。

 この本は2010年から2015年に渡って、雑誌に掲載されたコラムをまとめたものなのですが、巻末のあとがきは、2017年の4月に書かれています。佐々木氏はその2ヶ月後の6月に82歳で亡くなっており、その年の9月にこの本が刊行されています。

 児童精神科医として、生涯に渡って子どもたちの幸せを願い続けた佐々木正美先生が、最後に、ぼくら次世代に向けて、手紙を残してくれたように思えてなりません。