子育てコラム(109)「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 

☆店主カワムラの子育てコラム☆

毎月発行しているメールマガジに連載している、
店主カワムラにによる子育てコラムのバックナンバーを紹介します。
子育ての中で、父として感じたこと、
学んだことを織り交ぜて書き綴っています。
上から目線でアドバイスと言うよりむしろ、
わが子と向き合いながら、迷ったりうろたえたりしてることを
正直に書いているつもりです。
共感したり、参考にしていただければ、さいわいです。

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 2025年2月


 b-Cafe店主カワムラです。

 先日、お客様をお見送りしたあと、ホールの片付けをしていたら、本棚からはみ出ていた絵本が目につきました。

 背表紙が傷んでいたので、テープで補修したついでに、その絵本を、声に出して呼んでみました。

 林明子さんの「こんとあき」。保育園で働いていた頃、何度も何度も読んだ絵本です。

 ぬいぐるみのきつね「こん」と、おそらく5才くらいの女の子「あき」が、こんの生まれた「さきゅうまち」まで旅をする、というお話です。

 こんは、おばあちゃんから、もうすぐ生まれてく赤ちゃんのお守りを頼まれて、さきゅうまちから、あきの住む町にやって来たのでした。

 やがてあきが生まれ、それから、こんとあきはずっと一緒に過ごしました。

 こんは、あきのよだれで濡らされたり、はいはいで踏んづけられたり、しっぽを持って引きずられたり。

 あきが、だんだんと大きくなるにつれ、こんは、だんだんと古くなりました。

 ある日とうとう、こんの腕がほころびてしまいます。

 おばあちゃんに直してもらうために、ふたりは、汽車に乗って、さきゅうまちに向かうことにします。

 途中の駅で、お弁当を買いにホームに出たこんが、しっぽをドアにはさまれてしまう、というトラブルに遭いながらも、ふたりは「さきゅうえき」にたどり着きます。

 おばあちゃんの家に向かう前に、あきのリクエストで、砂丘を見に行ったのですが、あろうことか、こんは、突然あらわれた、のら犬にさらわれてしまいます。

 あきは、のら犬を追いかけますが、すぐに見失ってしまいます。大きな声で、こんを呼んでみても、返事がありません。

 やがてあきは、砂にうずめられた、こんを見つけます。

 あきは、すっかり弱ったこんを助け出し、背中におんぶして、おばあちゃんの家に向かいます。

 暗くなってくるなか、あきは、家並みの向こうで、あきたちを待ってくれているおばあちゃんの姿を見つけました。

 あきは、その胸に飛び込んで、

「おばあちゃん、こんを なおして!」

としぼり出すように言います。

 ふっくらしたおばあちゃんは、ゆったりとふたりを受け止め、

「しんぱい いらないよ、あきちゃん、よくきたね、さあ、うちへ はいろうね」

と言ってくれたのでした。

 ずっとこんを見守ってくれていたこんを、今度はあきが、なんとか助けようとしている。あきの成長に胸を打たれます。

 保育園で働いていたころ、ぼくはこの絵本を、卒園が近くなった年長さんたちに読んでいました。

 このシーンの辺りになると、あきと、目の前にいる子どもたちを重ねて、声がうるんでしまうのを隠しながら読んでいました。そして、みんなも、ほんとにおおきくなったねえ、という話をしていたのでした。

 お話はもう少し続くのですが、ぼくは、どこまでも広がる砂丘を、夕日を背に受けて、こんを背負ったあきが、おそらく歯をくいしばりながら、おばあちゃんの家に向かうシーンに、いつも圧倒されます。

 お話には出てこないのですが、作者の林明子さんが、雑誌のインタビューの中で、「こんの生地は、死んだおじいちゃんの古いコートなの」とおっしゃっています。

 なので、こんは、おじいちゃんの、魂のようなものを受け継いでいるのかもしれません。

 「だいじょうぶ、だいじょうぶ」というのが、こんの口ぐせです。

 腕がほころびてきたときにも。

 あわててお弁当を買って戻るさい、汽車のドアにしっぽをはさまれたときも、心配になって探しにきたあきに、

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。おべんとう、まだ あったかいよ」

と言います。

 砂の中から助け出されて弱りきっているときにでも、かすかな声で、

あきに「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とささや続けるのでした。

 この「だいじょうぶ、だいじょうぶ」というのは、気休めではなく、「あきちゃんならだいじょうぶだよ、なんとかなるよ」という、おおげさに言えば、あきを全肯定する勇気づけの呪文のようなものなのではないか、と思います。

 あきがこんを救い出して、さいごの力でおばあちゃんの元にたどり着くと、おばあちゃんは、大きな「だいじょうぶ」であきを包み込んでくれたのでした。

  *



 もう何年も前になるのですが、午後、店で片付けをしていたら、若い女性がおひとりでいらっしゃいました。

 お茶の後、絵本の棚を眺めていたので、絵本、お好きなんですか?とお声がけすると、はい、と答えてくれました。

 見ると「こんとあき」を手にしていたので、それ、大好きな絵本なんです。よかったら読みましょうか、と1対1で読み聞かせをさせてもらいました。

 やっぱりうるっときながら、なんとか読み終えて、女性を見ると、ぽろぽろ涙を流しているのでびっくりしました。

 ぼくがうろたえていると、彼女が、

 「河村先生、わたし、北口保育園にいた、Rです。私も保育士になったんです。保育園のとき、河村先生にこの本を読んでもらったの、ずっと覚えてます」

と言うものだから、ぼくももう、ぽろぽろ。

 あの甘えん坊で泣き虫のRちゃんがこんなになるなんて。

 そうなんだ、ありがとう、と少し話をしてからお見送りしました。

 お見送りしてから、そう言えばちょっと疲れている様子だったかもなあ。もう少しお話聞いてあげたらよかったなあ、と思いました。

 その後まだお会いできていないのですが、Rちゃんがいつかまた、店を訪ねてくれるのを待ちながら、それまで、こんがRちゃんに、

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

とささやき続けてくれていたらいいなあ、と願っています。

⭐︎福音館書店のサイト内に、「こんとあき」の特集コーナーがあります。
https://www.fukuinkan.co.jp/kontoaki/